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情報と人の脳の進化 [科学]

 最近NHKの番組で作曲家、「佐村河内守」の特集をやっていた。聴覚を完全に喪失していて、現代のベートーベンと言われている人で交響曲第1番<HIROSHIMA>はクラシックでは異例ともいえる10万枚の売り上げを突破して、現在世界でも、現代を代表するシンフォニー作曲家として注目を集めているらしい。私は、彼のことはそれまで全然知らなかったので、Webで検索をしていると、ある人が、コメントか何かに、本物の交響曲はドイツ人(ゲルマン民族)にしか書けないというような趣旨のことを書いていて気になった。確かにクラシック音楽、中でも特にシンフォニーの作曲はこれまでは、ドイツの独壇場と言ってもいいような状態である。

 話は飛ぶが、これも最近BSの番組で第2次世界大戦中にイギリスで作られた世界で最初の真空管を使ったコンピュータ、「コロッサス」の存在を知った。英数学者タットのアイデアをエンジニアのトミー・フラワーズがドイツの「ローレンツ暗号」を解読するためのマシンとして製作したらしい。一般に、真空管を使った世界初のコンピュータは、アメリカが大戦中に大砲の弾道計算を行うために開発した「ENIAC」が有名だが、このコロッサスの存在は戦後も暫くの間は極秘事項で、世間的に日の芽を見ることはなかったようだ。だが、このマシンのおかげでドイツのローレンツ暗号は連合国側に筒抜けとなり、ドイツ敗戦の大きな要因になったと言われている。

 音楽は、西洋で自然科学が発達して「音」が科学的に解明されるようになって、複音楽(ポリフォニー)になった。そのため作曲で同時に多くの音を扱わなくてはいけなくなり、それに伴って人の脳も多くの情報が扱えるように進化したと考えられる。和音自体もより重厚で複雑な和音へと進化をしていっている。この進化に一番適応したのがゲルマン民族だったのだろう。ドイツが一番輝いていた19世紀のはじめ頃から20世紀のはじめ頃までの100年間くらいの間は、クラシック音楽(シンフォニー)だけでなく、数学、物理学、医学など幅広い分野でドイツが素晴らしい業績をあげているのは偶然ではない。

 一方、アングロサクソン(イギリス人)は、音楽で見る限りドイツ人には到底かなわない。ドイツのお抱え作曲家のヘンデルがいるくらいで、見るべき様な作曲家はほとんどいない。しかし、イギリスにあって、ドイツになかったものがひとつだけあった。それは膨大で複雑な情報を機械に処理させる技術である。暗号のような膨大で複雑な情報は、人間の頭の中だけで処理するのは限界があって、それをマシンにやらせられるように人の脳が進化したと思われる。実際、この間、イギリスではアラン・チューリング、アメリカではフォン・ノイマンなどの優秀な計算機関係の科学者を多数輩出している。

 戦後は、コンピュータ開発の覇権はアングロサクソン(イギリス)からWASP(アメリカ)に移った。コンピュータは、フォン・ノイマンが提唱したプログラム内蔵方式のフォン・ノイマン型のコンピュータが主流となって、それは現在に至るまで進化を続けてきている。そして最近では、御存知のように世界中にあるそれらのコンピュータをネットで繋いで、スタンド・アローンのコンピュータの時代とはまた別次元の複雑さの様相を呈して来ている。今、まさにWASPの頭の中は、この途方もない膨大で複雑な情報を扱えるように進化している過程なのだと思う。

 最近、コンピュータと将棋の棋士の電脳戦で、コンピュータが3勝1敗1分けの成績で棋士を圧倒した。しかし、このコンピュータは従来のフォン・ノイマン型のコンピュータで、それは単に人間がプログラムしたとおりに動いているに過ぎない。しかし、次世代のAI研究では、既にニューロン・オートマトン型のcognitive computer(認識するコンピュータ)の開発も始まっている。このコンピュータの開発に成功すれば、人がコンピュータに将棋のルールを教えて、後は現在までに蓄積されている将棋の棋譜をデータとしてコンピュータに入力してやれば、後はコンピュータが棋士との対戦で自らが学習しながら将棋を指していくことも夢ではなくなる。フォン・ノイマン型のコンピュータとcognitive computerを組み合わせれば、序盤から中盤かけての大局感が必要なところはcognitive computerを使い、中盤から終盤にかけての論理的な詰めの間違いが許されないようなところではフォン・ノイマン型のコンピュータを使うといったような合わせ技も可能になってくるだろう。

 人間が作るルールには、①人が自然から学んで教えてもらうルールと、②人が人間のために作るルールの2つがあるように思う。この2つのルールのうちで、人間の知性の限界を越えさせてくれて、人間の脳を圧倒的に進化させてくれるものは①のルールだと思う。実際に欧米人の脳は①によって、これまで劇的に進化してきていると思うし、今後も進化していくだろう。①が無い状態で、②だけでやろうとすると、人はすぐに閉塞状態に陥ってしまう。今の日本の状況はまさにそれだと思う。②の本当に良いルールというのも、結局は①のルールにその基盤があるように思う。芸術、経済学や政治学、社会学にしても①に基盤を持たないで人間本位で作ったルールには本当にいいものはないように思う。これからの日本人の大脳皮質の進化ということに関して、もっと真剣に考える時期にきているように思う。

 by チイ


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かねた

と言いますか、現代(ここ70年間)佐村河内守ほどの機能調性を持った超大作を書ける人間が、まず世界中見渡しても何処にもおりませんのです。
はい。
by かねた (2013-04-27 19:45) 

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