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ワーグナー生誕200年~創造と破壊~ [音楽]

 この1月31日、東京文化会館で、作曲家、三枝成彰氏のオペラ「神風」のこけら落としがあった。この世界初演となるオペラを日本人の中で聴きに行った人ってどれくらいいるのだろうか?オペラは西洋芸術の最高峰と言われている。そのオペラをその国のどんな階層の人達が聴きに行っているかで、だいたいその国の知的レベルが分かると思う。恵まれた上流階級のお金持ちの人達だけではなく、貧しい労働階級や社会的地位の低い人達も聴きに行っているような国は総じてその国民の知的レベルが高いように思う。

 昨年春、銀座のヤマハのお店の地下の書籍コーナーで立ち読みをしている時、三枝さんの書かれているワーグナー評で、以下のような記述があった。

<だれもが脱帽する典型的な天才>

 (1)最も偉大な作曲家の名を挙げよ。
 (2)いちばん好きな作曲家の名を挙げよ。
 (3)とても自分には真似できそうにない作曲家の名を挙げよ。

(1)のおそらく偉大な作曲家として挙がるベストスリーは、バッハ、べ-トーヴェン、ワーグナー、
(2)の好きな作曲家といったときには、モーツァルトもしくはワーグナー、そして(3)のとても真似ができない作曲家といえば、まちがいなくワーグナーがナンバーワンになることと思う。

ワーグナーのすごさとは、このすべての答えに名前が挙がることであろう。
僕らに限らず作曲家ならだれでも、自分のことは棚に上げて、偉大な作曲家たちには少なからず手が届くと思っているものである。楽聖べートーヴェンにしろ、モーツァルト(音の微妙な変化を除けばだが)にしろ、バッハにしろ、彼らの音楽は決してはるか遠いところに存在しているものではない。

だがワーグナーは違う。どうあがいても手が届きそうもないのだ。あの電話帳のごとき分厚いスコア、そこに書き込まれた膨大な音符の数々-…・とても真似ができない。というよりも、彼のオペラとしては無謀ともいえる、分厚いオーケストレーションは、一体誰が歌えるのだろうか。こんな非常識さを持つたワーグナーの音楽の持っ腕力に圧倒され、ほとんど返す言葉もない作曲家たちは、みな苦笑いをしながら、ワーグナーにはかなわない、と認めざるを得ないのである。
                       「三枝成彰・大作曲家たちの履歴書」より

 クラシックの作曲家の人達にとっては、多分「オペラの作曲」という仕事は、交響曲を作曲する以上にやってみたい仕事なのだろうとは思う。しかし、ワーグナーは本当に凄いですね。多くの作曲家の人達にとって、ワーグナーは、バッハやベートーベンを超える存在なのですね。

 私はある時期までは、クラシックの声楽にはほとんど興味がなかった。クラシックの声楽が好きになったのは、ワーグナーを聴き始めてからだ。私は、ワーグナーの曲は一通りざっとは聴いているし、昔はDVDなども買って持っていたりもした。しかし、なるべく深入りしないように気をつけてはいる。ワーグナーの音楽は聴き始めると完全にその世界にはまってしまうのが自分でも分かるからだ。私は、ピアノという楽器が好きなのです。なので、音楽もジャンルに依らずに、ピアノ音楽を中心に聴いています。でもワーグナーを聴き始めるとその前提条件が全て壊れていってしまいそうで。それはそれで音楽のもっと広い世界を知るという意味では良いことなのかもしれませんが、音楽は趣味なのでピアノ音楽の中である程度閉じていたいという思いもあります。(もともとキャパシティー(容量)の少ない人間でもあるので。)

 「ワグネリアン」という言葉がある。日本でも、故ソニーの創業者の「盛田昭雄」氏や日本の大型計算機の父と言われた故富士通の「池田敏雄」氏などもワグネリアンである。最近でも脳科学者の茂木さんやそのご学友の和仁さんなども大のワーグナーファンのようだ。特に、戦前のドイツ文化の水準の高さを知っている人達の中にワグネリアンは多いように思われる。思うに、もしロマン派の時代にリストやワーグナーの新ドイツ派が出てこなかったら、ドイツ音楽がブラームスによって統一されて、その後暫くの間はクラシック音楽自体が長らく閉塞していたのではないかとも思う。面白いなと思うのは、リストもワーグナーも自分達の後を引き継いでくれるのは当然ドイツ人だと思っていたのだろうが、実際その後クラシック音楽の中心はドイツからフランスに移っていくことになる。これは全然悪いことではなくて、それまでドイツ中心だったクラシック音楽にフランス人の新たな感性が加わって、クラシック音楽自体がより実りの多い音楽になっていくきっかけにもなった。

 ワーグナーくらいの天才の芸術は、それが外に向いて開かれて行くときは、世界に創造の芽を与え、世界をより豊かにしていくが、それがひとたび内の世界に向かって進む時、世界に大きな破壊をもたらす。ワーグナーが望んだわけではないにしても、ヒトラーがワーグナーの音楽を純粋なゲルマン民族の象徴として利用したことで、世界中にワーグナー嫌いをつくってしまったことも事実だ。ワーグナーの音楽の本質は「魂の救済」にあると思う。それがドイツ人だけのものであるのはあまりにももったいない。本当に世界の全ての人々が聴くべき音楽なのだと思うし、そうあってほしいと思う。

 戦前、ドイツの芸術、学問は世界の最高峰にあった。そしてそれは、多くの部分をユダヤ人の才能によって支えられていた。ヒトラーが出てきてユダヤ人を殲滅したため、戦後ドイツの文化レベルは著しく低下してしまった。音楽の世界でもベルリンフィルの質は大きく低下した。才能のある演奏家のほとんどがユダヤ人であったからである。今では、世界の大学ランキングの上位にドイツの大学はほとんどないが、戦前のドイツの大学には、リーマンもいたしアインシュタインもいた。ゲルマンの最高の知性とユダヤの最高の知性が当時のドイツにはいたのである。一般相対性理論は、アインシュタインとリーマンの知のコラボレーションで生まれている。(アインシュタインは、一般相対性理論を記述する道具としてリーマン幾何を用いた。そのため友人の数学者グロスマンにテンソル解析を学んで、共著論文を提出後、当時のドイツの大数学者のヒルベルトとの間で、重力場の方程式の先取権論争が起こっている。(注))

 日本の音楽界から、ワーグナーに匹敵するあるいはそれを超えるようなオペラ作曲家が登場するのはいつの時代になるのだろうか?ワーグナークラスの新作のオペラのこけら落としは、世界的にも大事件であると思うし、その日は世界中の人々の心の中に刻まれる日になるべきだとも思う。

くだらない話ですが、...

ワーグナーの「おでこ」って異様に大きいですよね。前頭葉が相当に発達してそう。コンドリーザ・ライス前国務長官や将棋の渡辺明竜王の「おでこ」に似てますね。ワーグナーのIQって、200近くあったんじゃないんでしょうか?多分、膨大な数にのぼる音の組合せの中から、頭の中で瞬時に判断して最高の音の組み合わせを構築できたんでしょうね。

(注)内容に間違いがあったので、4/22(月)に訂正しました。アインシュタインはリーマンの没後(13年後)に生まれています。ヒルベルトはアインシュタインより5日はやく論文を提出しましたが、1997年の調査で、正しい方程式の先取権はアインシュタインにあるとの最終的な裁定が下された。

220px-Richard_and_Cosima_Wagner.jpg ワーグナーとコジマ

f0055956_7283859.jpg バイロイト祝祭歌劇場。今も、ワーグナーとリストの子孫が運営しています。


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