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英才教育(相聞花伝ブログ100回目記念記事) [風物]

 相聞花伝ブログも今回めでたく100回目記事となりました。記念に宮崎さんに英国からの記事を書いていただきました。

                          「英才教育」

 私事だが、我家の14歳になる娘はテニスを真剣にトレーニングしており、プロ養成のジュニアテニスアカデミーに所属して練習に励んでいる。平日は学校とテニスクラブを往復するのでその送り迎え、またほぼ隔週で試合があり、遠征先も英国内に留まらず、ヨーロッパ各地・中東にまで広がり、その都度親が同行するので、親の負担は半端なものではない。
 きっかけは彼女が6歳のとき。当時我家はスイス駐在だったが、軽い気持ちで小学生だった息子と娘にテニスを習わせたのがはじまりである。初日、1時間のレッスンが終了するなり、私はコーチに呼ばれた。
「ミセス・ミヤザキ、どうやらこの子は特別な才能があるようだ。遊びではなく真剣にテニスをさせてみてはどうか?」
子供用のおもちゃのようなラケットで、スポンジボールをポンポン打っているだけの子に一体何を言っているのかと、私は呆気に取られていたが、彼の話はさらにこう続いた。
「テニスというのは非常に特殊なスポーツで、本人の資質だけでなく、優れた指導者と親のサポートが必要で、この三位一体がバランスよく揃わなければならない。まさに音楽でいえば、ピアノやヴァイオリンを専門にさせるような特別な環境が必要なので、家族でよく検討してほしい。」
私は、体の中で何か新しいエネルギーが動き出すのを感じ、とっさにこう答えた。
「私はプロのピアニストです。」
すると彼はこう言った。
「それなら話は簡単だ。貴女の母親がしてきたことを、貴女はすればいい。」
その日から、テニスプレーヤーを目指すべく娘の英才教育が始まった。


 同じ頃スイスで私は、ある韓国人の天才ヴァイオリン少女Yちゃんの専属ピアノニストをしていた。Yちゃん一家は、Yちゃんのヴァイオリンのために韓国からスイスに移住していた。
やはりヴァイオリニストの父親と作曲家の母親の間に生まれたYちゃんは、両親から受け継いだ類いまれな才能を幼少時より発揮し、6歳のときに巨匠ティボール・ヴァルガ氏の目に留まり、氏が50年ヴァイオリンの指導をしてきて初めて出会った逸材 と言わしめた。それから数年間、Yちゃんは春・夏・冬の学校の休みに氏のレッスンを受けるために、母親に連れられて韓国から氏の住むスイスを訪れる生活を続けたが、Yちゃんの上達は目覚しく、Yちゃんのためにヨーロッパでの生活が必要と考えた両親は、一家でスイスに移住することを決意する。当時Yちゃんの父親は、ソウルのシンフォニーでコンサートマスターを務め、音楽大学で次々と弟子をジュリアードやウィーンに送り込む敏腕教授として活躍していたが、そのキャリアをバッサリと切り捨てた。
 私は、Yちゃんの伴奏をしながら、彼女の両親から子供の才能を伸ばす“英才教育”のあり方、親の姿勢を直に学んだ。目標を目指し、まさに親子二人三脚である。
これは楽器やスポーツに限ったことではなく、芸能の世界でもあてはまり、ステージママの例えによく出される“美空ひばり”の母親などが良い例ではないだろうか。我々クラシック界の大先輩・小澤征爾先生や中村紘子先生の母君も、そのステージママぶりはあまりに有名である。
 活躍する子供を持つ親はよく口を揃えて
「いえいえ、私はなーんにもしていませんのよ。この子のやりたいことをやらせているだけです。」
と言うが、それは大嘘である。その言葉の陰には、他には見せない大変な努力と忍耐が存在する。
また一方で、親が頑張りすぎるあまり子供にプレッシャーをかけ、未来ある才能をつぶしてしまう不幸な例もある。そのあたりのサジ加減、精神的なコントロールが重要である。
天から授かった子供の才能を生かすも殺すも親次第・・・
各界で活躍する人々を見るにつけ、私は決して表には出ないその親の努力と功績を称えずにはいられない。

2010年2月 ロンドン
宮崎章子


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コメント 2

チイ

100回目記事、ありがとうございました。
それにしても、宮崎さんのお子さん達、将来が楽しみですね。よいサポートをしてあげてください。
先月、中島さち子さんともライブ後に少しお話ししたのですが、大変魅力的な方で、物腰も柔らかいし、人柄も謙虚だし、人間的にもすばらしい方でした。彼女の場合もそうだと思いますが、結局才能のある人って、何をやってもうまくできてしまうので、その中での選択に本当に悩まれるのだろうなと。凡人の私からすると、その中のひとつでもいいから分けていただきたい気分です。
by チイ (2010-02-14 12:42) 

。。

せっかく素晴らしい最のがあるのに、
本人がやる気がないや怪我等ならともかく、不理解な親のせいで、その才能を磨くこともできなかった試すこともできなかったのは悔しいでは済まないですよね

素質努力、親や先生など環境が揃ってこそですよね、音楽でも絵画やスポーツ勉強も


by 。。 (2014-02-16 16:51) 

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