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司馬遼太郎の遺言 [社会]

 先日、BSのNHKアーカイブスか何かの番組で、たまたま作家の司馬遼太郎の思い出のような番組をやっていて、その中で司馬遼太郎が語っていたことでハッとさせられることがあった。作家としての司馬にとって、昭和という時代は大変精神衛生上良くない時代で、戦後の彼の最大のテーマは、日本人が結局は「戦術」止まりのことしかできない民族で、「戦略」レベルのことはやる能力がないのか?ということを日本の過去の歴史の中から考えるというものだったらしい。司馬がその中で言っていたことだが、戦略を持たないで、戦術のことだけにしか興味がない民族は、戦術的な事で成功をおさめると、子供化(幼稚化)してしまうと言っていた。(これは日露戦争以降の昭和の先の敗戦までのことを言っている。)そして、もう司馬はいないが、戦後の高度経済成長以降の日本もまた同じ道をたどっているように思えてしまう。

 一般的に、これは司馬遼太郎だけが言っていることではなくて、欧米の人は日本人のことを、「戦術はあっても戦略のない民族」という認識を持っている。戦略を持つとは、簡単に言ってしまうと「大人」になるということだと思う。マッカーサーが日本人の精神年齢は12歳だと言ったことは、日本人がまだ戦術レベルの子供で、戦略レベルの大人の思考はできないということと等価だと思う。戦後は特に、日本人自身が戦術だけで何が悪いんだと逆に居直ってしまって、(またアメリカが日本人に戦略的な思考をさせないために、これを後押ししたこともあって)、日本人は本当に戦術を地で行く民族になってしまった。

 「戦術があって戦略が無い」というのは今風の言葉に置き換えると、今の日本の現状の至る所にそれを見ることができる。政治が、戦略を行うべき政治家が機能しないで、官僚任せになってしまっているのもそうだろう。技術はあるが、サイエンスや哲学が無い国とも言えるだろう。また欧米の大学がリベラルアーツを含めた戦略を教える高等教育機関であるのに対して、日本の大学は基本的には戦術レベルのことしか教えていないと思う。そういう意味では、理数系だけに限っていえば、東京大学も京都大学も東京高等技術専門学校、京都高等技術専門学校に名前を変えた方がいいのかもしれない。

 日本人が、「戦術があっても戦略が無い」民族になってしまったのは近代になってからというより、ずっと昔からの日本が置かれてきた地勢的な理由に因る所が大きいように思う。昔は中国から戦略的な部分はそのままそっくり持ってきて、後は個別の戦術的な部分だけを日本に合うように創意工夫していればそれでよかった。実際、戦術的な事を日本人くらいきめ細かにやれる民族は他にはいないだろうし、それはそれで日本人の誇るべき特性のひとつではあるのだが。明治以降は、お手本が欧米に変わっただけでやっていることは昔と全然変わっていない。

 問題は、日本はもう成熟国家になってしまったということだ。成熟国家になるということは大人の国になるということだ。今の日本の国って、たとえて言うと、大人になりきれていない、ませたガキ(とっちゃん小僧)みたいなものだと思う。私は日本人の9割がこのまま子供のままで、戦術的なことだけをやっていたい、それでもって平和に暮らしていくことを望んでいるのであれば、日本はアメリカの第51番目の州になればいいと思う。51番目の州として第2外国語として日本語を話す日本文化や戦術に特化したことだけをやる州があってもいいと思うし、多分アメリカもそれを受け入れてくれるだろう。逆に欧米流の教育を受けたい人は、同じ合衆国の中の別の州に移ってその中で日本人としての力を発揮すればいいと思う。

 今の日本は大きな分岐点にいる。大人になるのか、このまま子供のままでいるのか?子供のままでいたいなら、上記の選択がベストだと思う。子供のままで、戦略を持たないでひとつの独立した国として突き進めば、前回と同じ間違いを繰り返すことになるだろう。成熟国家として大人を目指すなら、日本人も戦略的な思考を持つしかない。それは日本人にとっては未知の新たな挑戦になる。

by チイ


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若松若水

私も司馬遼太郎のファンです。
拙ブログの8月20日付け記事で
「司馬遼太郎と福井の寿司屋」という話を書きました。
司馬の器の大きさが感じられる話だと思います。
ご高覧いただければ光栄です。

by 若松若水 (2017-08-22 00:20) 

soumon-kaden

若松若水様、

故糸川英夫が司馬遼太郎のことを、あの人は日本の最高の科学者だと言っていました。ものの見方、考え方が合理的で、論じ方がサイエンスだと言っていました。
by soumon-kaden (2017-08-22 17:59) 

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