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これまで自分たちが出来なかった事をやれるようになるということ [経済]

 先月の終わり頃、スティーブ・ジョブズ氏がアップルのCEOを退任することになった。後任には、ティム・クック最高執行責任者(COO)が付く予定だそうだ。(癌で激やせのジョブズのプレゼンを見るのは忍びなかったが、体力の限界というところなのだろう。後任のティム・クック氏も痩せていて、戦う男の顔をしている。日本のCEOのように毎晩お付き合いで飲み歩いている人達とは別種の人間だ。)

 6月のブログにアップルのクラウドコンピューティング戦略のことを書いたが、実はアップルは本格的なクラウドに挑戦するのはこれで4度目だそうだ。これまでの3度の試みはいずれもうまくいっていないようである。元々アップルは、マイクロソフトなどと同じで、ソフトのネイティブアプリには強いが、Webアプリはあまり得意ではない。またグーグルのような分散型のネットワークコンピューティングも本来得意分野ではない。しかし、今回の4度目のチャレンジで、米ノースカロライナの巨大データセンターの稼働に伴うiCloudで、会社の命運をかけて本格的なクラウドコンピューティングに挑もうとしている。ジョブズとしては、アップルの時価総額が最高になった時点で、お金のあるうちに巨大データセンターを何機か建設して、後は若い世代に将来を託する形で退いたのだろう。評論家の中には、アップルがこの先、成功するかどうか非常にリスクは大きいという人もたくさんいるようだが、ジョブズはこのチャレンジなしで将来のアップルがないことは、はっきりと確信していると思う。

 一方、グーグルの方もモトローラ・モバイルを買収して、これまで唯一苦手にしていたハードウエアの分野にも積極的に参画して来ている。米の両最先端企業がリスクを取って、自分たちのテリトリーを広げようとしているわけだ。今、グローバル化の波に乗り遅れた日本の大手企業の中で、彼らほどリスクを取って、チャレンジしようとしている企業がどれくらいあるのだろうか?日本政府の方も、金融緩和、緊縮財政で為替介入を行って円安を誘導して、あいかわらず古い製造業を守ろうとしている。(それと同じ政策で製造業を守って、失われた20年を経験して、世界金融危機を誘発させておいて、まだ懲りずにその道を歩もうとしている。)

 今は、グローバル化した世界経済の流れに素直に対応していった方が良い。為替介入しなければ、円高は50円台くらいまでいってしまうかもしれない。それが世界経済の流れであるならば、今日本にある製造業の大部分は中国や東南アジア、インド、ブラジルなどに出ていけばよい。今の日本の自動車、テレビ、デジカメなどは設計部隊を含めて、それをやりたい人達は海外に出て行ってやればよいだけの話だ。(要するに、海外の安い電力や人件費を使って、日本人の使うモノを海外で生産すればいいだけの話だ。それを無理をして日本に残そうとするから問題が大きくなってしまう。)そして、空洞化した日本国内の産業には、システムやソフトウエアのなどの高付加価値サービス産業を興してビジネスモデルの大転換を図っていくしかない。簡単に書いているが、これはどんなに苦しくともそれを成し遂げなければ日本の将来は絶対にない。

 今、日本の産業界は大転換を迫られている。失われた20年を経て、原発、電力の問題なども抱えて、もう待ったなしの状態に追い込まれている。そしてそれは、ハード=>ソフトウエア・システム、モノ=>有機的な情報、目に見えるモノ=>目に見えないモノ、への軸足の移動と言ってもいい。これからの時代、ハード(モノ)の差別化で自社の強みをだして生き残りを考えているような企業は、間違いなく没落していってしまうだろう。自分達が得意な事をやっても駄目な場合は、自分たちの不得意な分野を出来るようにして、自分達自身が変わっていく以外に生き残っていく方法はない。ネットに代表されるように、世の中がシステム化するということは、目に見えないものが主役になっていくということだ。(そしてそのシステムの中心はハードではなくてソフトウエアになっていく。)東日本の大震災での津波、原発事故(放射能)は、私達日本人に、目に見えるモノから目に見えないモノへの価値観の転換を訴えているように私には感じる。

 日本の産業界の人達は、旧日本軍が越えられらかったモノから情報への転換のまっただ中に自分達がいることを自覚して、必死になってその壁を乗り越えることを真剣に考えた方が良い。そんな時、「モノ作り」を声高に叫んで、自分達の得意な事をいくらやっても、結局は、「ものつくり敗戦」になってしまう。もうそんなことをやっている余裕も時間もないはずだ。「モノ作り」にしても元々は日本人が欧米人に教えてもらったものだ。旧日本軍は、大量生産を経験していなかったので、戦後はアメリカから生産管理の手法を学んで、モノ作り大国になった。日本人は、それが他人から教えてもらったものでも、それを極めてその人を追い越したと分かった途端に、それは自分達のオリジナルだといつも言い出して、それを守ることにきゅうきゅうとしてしまう。極めたのなら、そんなものとはとっととおさらばして、新しいことにチャレンジすればいいだけの話だ。

 現在、日本がソフトウエアが大事だと分かっていても、それに手を出せないのは、日本のソフトウエアが置かれていた特殊な事情にも要因がある。今まで、日本では、ソフトウエアとは組み込みソフトウエアのことだった。日本のソフトウエアは、ハードウエアと密接な関係にある組み込みソフトとして発展してきたので、その分野はまだいいが、それ以外の分野ではからっきし駄目だ。そして、今米のIT産業を牽引している高付加価値を生むソフトウエアの技術は、コンピュータサイエンスに代表されるようなソフトウエアの技術だ。オペレーティングシステム、コンパイラ技術、仮想化技術、ブラウジングの技術、データベース、並列化処理、分散コンピューティング、フレームワーク技術など、今まで日本が全て欧米に丸投げしていた技術が中心になっている。ある人も書いていたが、ハード=>ソフトへの主役の交代は、時代が20世紀から21世紀に移る頃に起こったと言われていて、付加価値の重さの逆転として、本質的な技術の軸足移動となった。(丁度、ウォークマンがiPodに駆逐されたあたりからだ。)このあたりのソフトウエアの技術は、日進月歩で、それこそ半年~1年その世界から遠ざかれば完全に浦島太郎になってしまうほど進化のスピードが速い。企業の取り組みだけではもう間に合わないだろう。国内の大学などでもこのへんの最先端のソフトウエア技術を導入して教えるような学科の新設なども早急に行う必要があるように思う。それに加えて、国内のオープンソースの取り組みの活性化などにも依るところが大きいと思う。

by チイ


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コメント 2

クラウド

そうですね~
勉強になりました。
ありがどう~

by クラウド (2011-12-14 20:04) 

仮想化

おっしゃられる通り、ますます仮想化が進んでいきますね。「情報」中心の世界になっていきます。

by 仮想化 (2011-12-19 20:55) 

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