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ロハスの思考 [本]

 3月の終わり頃に福岡伸一氏の「動的平衡」刊行記念トークセッションが川上弘美さんを迎えて新宿の紀伊国屋サザンシアターで行われたので行って来た。その際に受付で販売されていた両氏の書籍の中に、「ロハスの思考」という題名の単行本があったので買ってみた。

「ロハス」という言葉をご存知だろうか?LOHASとはLifestyles Of Health And Sustainabilityの頭文字をとった言葉で、直訳すると、「健康と持続可能性に配慮したライフスタイル」ということになる。

ロハスとは、ある種の思想革命である。つまり、これまで私たちを支配しようとしていたファストフードという名の加速、あるいはグローバリゼーションという名の均質化に対するパラダイムシフトである。線形的な加速から、円形的な循環を模索する思考といってもいい。言い換えるなら、閉じられた志向を開く思考である。

ロハスの思考には内在する2つの軸がある。y軸はエゴとエコ。x軸はファストとスローである。ロハスとはエコでスローなこと、とはただちにはならない。ロハスのy軸は、ややエコ寄りながらエゴの部分もある、という領域に座標をおくことになる。一方のx軸も、完全にスローには偏らず、スロー寄りながらファストも含む、というポジションになる。

要約すると生命を含めたこの自然界は、大きな動的平衡の流れの中にある。その中で人為的で線形的な加速操作が加えられると、確実に、この平衡と流れを乱すことになる。なるべくならこのような負荷を環境に与えないようにして、ファストな加速はこの動的平衡系を大きく乱さない程度のものにとどめるべきとするものである。加速には余分なエネルギーが必要で、環境のどこかでそれ以上のエネルギーが失われている。一方、加速したことによって出現した効率は、環境のどこかでそれ以上のつけを払わなければならない。私たち自身が確実に環境から揺り戻しを受けることになる。

 今の世界金融危機からの景気回復の議論にしても、早期の経済のV字回復だけが焦点になってしまっていて、そこにはあまりLOHAS的な思考は見て取れない。(もちろん、アメリカのグリーン・ニューディールのようなエコ産業の推進のようなものもあるが。)早期に経済がV字回復して今まで以上の線形的な加速で先進国及びBRICsの国々が経済成長すれば、地球数個分のエネルギーや資源が必要になることは既に分かっている。今度は、あっという間に、実体経済の方でも資源、エネルギーバブルがはじけてしまう。おまけに今の地球環境は、今後の地球規模の人口増加にともない、大幅な食糧や水の供給力不足になることも分かっている。否が応でも、循環型の経済に移行していかないといけないのは明らかだ。少なくとも、欧米の人たちはそのことに既にもう気付きはじめている。

今後、アメリカの自動車産業がどうなるかはまだこれからだが、私は今回のビッグ3の結末で、20世紀型の大量生産、大量消費の時代は終わりを迎えると思う。(大量生産そのものがなくなるという意味ではなくて、資源、エネルギーが無尽蔵にあるという前提での大量生産、大量消費がなくなるという意味。)今後、車は以前のようには売れなくなるだろう。(電気自動車のようなエコカーを作っても。)また日本のAVに代表される家電製品も以前のようには売れなくなるだろう。客に買わせるための多くの不要なフォーマットや、ちょっとした機能や差別化を図った新製品の類は、今後は売れなくなっていくだろう。V字回復して、今まで以上に加速して今回の損を取り返してやろうなどと考えないことだ。それを目論んでいる企業は多分、今後手痛いしっぺ返しを受けることになると思う。

いずれにしても今は循環型経済に向けた、産業構造の変革の過渡期だ。アメリカの自動車産業のように、この時期に必要のないもの、規模を縮小しなければいけない産業は人を減らして、循環型経済に向けた新しい産業に人をシフトしていけばよい。逆に今のこの時期に日本の自動車産業や、電気大手などは産業の構造改革が行えないで、後々不要な人をたくさんかかえてしまって、この変化に乗り遅れてしまうのではないか?先にも書いたように、20世紀型の大量生産、大量消費時代の終わりで、今後、日本の自動車産業や電気大手の人員は、大幅削減になるだろう。若い人や力のある人、アイデアのある人は独立して新しい産業を興せばいい。

 805.jpg   福岡伸一著 : ソトコト新書 

by チイ


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コメント 2

きんちゃん

川上弘美さんの作品は、語りの秋元紀子さんが紹介して下さって読みました。秋元さんは語っているそうです。
ロハスという言葉、知っているのに定義は曖昧で、庭に家庭菜園を作っていて、大きな犬(ゴールデンレトリーバーが望ましい)を飼っていて、少し白髪の混ざったご主人は休日家庭菜園でとれた野菜を使ったイタリアンを作って友人にごちそうし、茶髪にしていない奥様も紅茶など手に暖かいまなざしでご主人と友人の会話を見守っているような絵を描いていましたが、もっとはっきりしたものなんですね。なんか富裕層、知識層の休日的なイメージでした。
先日、高齢の母が脳出血で倒れ、いちおう退院したのですが不安感からかケータイを所望しますので、カメラ機能のすぐれたすごいとしか言いようの無い機種を買いました。
もうコンピュータ付きのデジカメです。
それが1円なんです!
アナログな私からすれば、あんな優れものが1円なんて考えられない。確かに基本使用料に上乗せして長期的に見ればかなり払っているのでしょうが、本体価格1円で売るというのがロハスの思想の逆に思えます。助かりますけど。

モノの値段がその価値と一致しないのは先進国特有の状況ではないかと思います。
昔行ったインドでも、モロッコでも、貧乏観光客が直面するのは「それ」を「いくらで」買いたいか常に自分の心に問わなければいけない事で、それ故に買いたいときに熟考するのです。

アメリカ型の経済優先、使い捨て文化の見直し時期にきているような気がします。


by きんちゃん (2009-04-28 09:03) 

soumon-kaden

川上弘美さんは、お茶大の生物学科を出られていて、福岡さんとも生物の話を対等にできるくらいのインテリです。4年生の時は、ウニの精子の研究をされていたそうで、1年間ウニの精子を顕微鏡でずっと見られていたそうです。本格的に作家になる前に、高校の生物の教師を4年間くらいされていたそうです。
LOHASへのパラダイムシフトはかなり難しいと思います。今回の金融危機でもそうですが、それをやっている本人達は、何かおかしいと分かっていても、それを止めてしまうと自分の仕事がなくなってしまうので、結局バブルが起こるまでやってしまうわけです。日本製品も、それが売れている間は、資源の無駄使いは止めないと思います。でも欧米の人たちはそろそろそのような製品は買わなくなってくると思うので、私としては人類の良識を信じたいところです。
by soumon-kaden (2009-04-28 17:41) 

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