SSブログ

コンピュータ・サイエンスにみる学びの多様性 [学問]

 最近、文春新書から「知立国家 イスラエル」(米山伸郎著)という題名の新書が出版されて、大変興味深く読ませていただいたが、その中で特に気になった箇所があった。今の日本のコンピュータ・サイエンスの現状をそのまま表している数字のように思えた。「コンピュータ・サイエンスで有名な世界の大学のトップ30の中に、イスラエルの大学が4校も入っているのに対して、日本の大学は一つも入っていない。


 これは最近の世界の大学ランキングで日本の最高学府である東大が40番台の前半であるのを考えると、そんなに驚く様な数字ではないのかもしれないが、21世紀のこれからの将来展望を考えた時、日本産業にとっては切実な問題になってくるように思われる。ちなみにイスラエルでは16歳から選抜される軍関係のトップ頭脳集団「タルピオット」では、3年間かけて高等数学、物理学、コンピュータ・サイエンスの3学科を徹底的に叩き込まれるようだ。(日本の大学で4年かけて1科目を専攻するのを3年間で3科目やってしまう。)中でも、コンピュータ・サイエンスは国策として最も力を入れている分野でもあるらしい。


 そもそも日本にはコンピュータ・サイエンス学科や学部というものは基本的には存在しない。東大や京大にもない。あるのは工学部の中に、「情報ナンチャラ学科」みたいなものしかない。前にも書いたが、多くの日本人はコンピュータはサイエンスだとは思っていないので(注)、まず「コンピュータ・サイエンス」という言葉自体にかなりの抵抗がある。そしてやっている事はといえば、そのほとんどがハードウエアに関係する事が中心だ。思うに21世紀のコンピュータ・サイエンスでは7〜8割くらいがソフトウエアに関係するものになると思う。cognitive computing用の新しいハードウエアももちろん必要になってくるが、それもソフトウエアがあってのハードウエアだと思う。


 今のままの状態だったら、これからのAI時代、本物のコンピュータ・サイエンスを学びたい人は海外のWASP系の大学やイスラエルの大学に留学した方がいいのかもしれない。学びの多様性という意味では、ビルゲイツもマーク・ザッカーバーグもIT関連で成功している人の多くは、高校時代に学校にも行かないでプログラミングに熱中し、大学では起業して中退している。逆にラリーペイジやセルゲイブリンのようにコンピュータ・サイエンスの名門校で大学院まで進学して勉強したような人達もいる。ハーバードの数学科に入るような人も小中学校で飛び級した人とか数学オリンピックでメダルを取った人達とかで、少なくともSAT(日本の大学受験に相当するもの)の点数で選んでいるような人はほとんどいないと思う。


 現在の日本の大学受験にはコンピュータ・サイエンスはない。数学はというと、線型代数は2行2列の行列止まりで行列式のレベルにも行っていない。ベクトルは内積止まりでベクトル解析はまだ先の先。微積分は変数分離止まりで線形微分方程式にさえも行っていない。確率は条件付き確率止まりで、現在のベイズ全盛期に全く対応できていない。物理はといえば、力学は微積を使わないで力関係の図を描いて代数に当てはめるような、もう中学でやったらいいようなレベルのことを今だにやっているし(17世紀にニュートンが微積を使って力学を完成させたレベルにすら行っていない)、電磁気は、マクスウェルの方程式も知らないで、受動素子だけの交流の回路の問題や、直流のコンデンサの開け閉めのようなくだらない問題をやっている。


 20世紀はそれでも工学部で猫も杓子も電子回路さえ作っていればよかった時代には、皆が一律に全く同じ学びをしていればよかったのかもしれない。しかし、21世紀の時代には全くそぐわない内容になってしまっていると思うのは私だけだろうか?イスラエルの国家戦略(目的)はただ一つで、それは「生存」するということ。前にも書いたがユダヤ人は全ての点において日本人とは真逆の特性を持っている。その彼らが「生存」を第一の戦略としてあげているという事は、逆に言えば、世界で一番すぐに滅びてしまう可能性があるのが日本ということになってしまう。上記日本の大学受験の内容が陳腐化してしまった時、学びの多様性のない日本はあっというまに陳腐化してしまうかもしれない。


(注)欧米のコンピュータ・サイエンスの理想形は、おそらく、サイエンス、工学(エンジニアリング)、数学の3つが三位一体となったような形をしていると思う。


51uY3jzQhyL__SX314_BO1,204,203,200cut_.jpg


by チイ

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。