SSブログ

意識を持った人工知能は実現するか? [本]

 お盆の前に日本橋丸善で、クリストフ・コッホ著の「意識をめぐる冒険」(英語の題名は、CONSCIOUSNESS Confessions of a Romantic Reductionist)を買って休みの間に大体全部読んでしまった。今年はまだ終わってはいないが、この本は多分今年読んだ本の中でのベスト本だろう。原書の英語版のものは2012年に出版されているので、約2年遅れにはなるが現在手に入る一般向けに書かれた日本語で読める「意識」について書かれた書物では最新にして最高のものだろう。

 コッホは40歳年の違うフランシス・クリック(DNAの二重螺旋の発見者)と長年にわたって脳の意識の研究を行ってきて、クリックが亡くなってからも研究を続けているその道の第一人者。この本を読んで、何故クリックが40歳も年の離れたコッホを共同研究パートナーに選んだのか分かったような気がした。

 私が脳の「意識」の問題に興味があるのは、人工知能で思考するコンピュータを作った場合、それが意識を持たない状態で(人間が行うような)高次の思考を行うことは可能か?という問いに関係している。私は思考するマシンはまず最初は、意識を持たない、所謂ゾンビマシンとして開発されると思う。意識をもってないからといって、そのマシンが思考を行えないわけではない。人間の脳もかなり複雑な思考も含めてそれらの多くは無意識の状態で処理されている。現行のベイズ統計を使ったモデルの延長線上のものでも、たとえば東大君(東大の入試に合格するくらいの知能を持ったマシン)のようなものは十分開発可能だと思う。その場合、そのマシンは無意識か、意識はあっても雑音程度のもので、とても人間の意識の高さとは比べられるようなものではないだろう。

 要は、思考の範囲が予め決まっている中での複雑な応用みたいな問題はそれでも解けるのだろう。しかし、第一線級の学者が行うような高次に統合された思考、たとえば、それまでどこにもなかったような全く新しい分野を創造するなどの思考はやはり意識を持たないと無理のような気がする。(このへんはまだはっきりと分かっているわけではなくて、ひょっとしたらゾンビマシンでも全てOKということもありえるかもしれない。)ただこれは作曲などで考えてみた場合、人間が感動する全ての作曲パターンをコンピュータに教えておいて、それでもって生身の人間が作曲する交響曲以上の傑作をマシンが作れるか?ということを考えた場合、マシン自身が意識を持っていて自分の作る曲に耳を傾け感動するということ無しにそのことが行えるか?いうのはかなり疑問だ。いずれにしても間違いないのは、いずれ思考するマシンはゾンビマシンのようなものから、人間のような意識を持ったマシンに開発段階がステップアップしていくだろうということです。

 この本には、それに関係してコッホが期待を寄せる、ジュリオ・トノーニの意識の理論「統合情報理論」(Information Integration Theory of Consciousness)も紹介されている。コッホは現時点では、意識に関してはある種の汎心論(panpsychism)的な考え方を支持していて、創発や還元主義では説明できないという立場を取っている。この理論は簡単に言ってしまうと、全体として統合された情報量Φ(それが意識レベルになる)をどれだけ多く持てるかが意識の高さになるといもので、これからの人工知能開発はこのΦの大きな処理システムを作ることが重要になるだろうと言っている。ティム・バーナーズ=リーの提唱するセマンティック・ウェブやスモールワールド・グラフなどはその代表例です。(トノーニの理論の概要は下記の文献(1)に、その数学的な側面については文献(2)に書かれています。)

 本書の内容はこれ以外にも、意識の「ハード・プロブレム」、クオリア、意識の神経相関(NCC)、無意識、自由意志、意識メーター、科学と宗教の関係など実にさまざまだ。また無意識と意識の関係など、演奏家やアスリートなどが知っておいたほうがいい脳の機能など内容盛りだくさんです。意識の問題はつい最近まで科学が扱うべき対象(領域)ではない(実際に今でもそう思っている科学者、哲学者はたくさんいます。)と言われていた分野なので、まだまだ哲学的な形而上学的な話も多くて頭の悪い私には読みずらいかなと?と思っていましたが、その内容の面白さとコッホの文章のうまさで私でも比較的すらすらと読めました。現代人の必読書といったところだろうか?

文献(1) 

http://www.biolbull.org/content/215/3/216.full.pdf

文献(2) 

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2386970/pdf/pcbi.1000091.pdf

 

consciousness.png クリストフ・コッホ(著)、岩波書店

by チイ


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。