SSブログ

普遍文法 [学問]

 日経サイエンスの5月号の特集「言語学の新潮流」で、「チョムスキーを超えて〜普遍文法は存在しない」という記事が掲載されていた。普遍文法は、「人は生得的に言語習得機構、すなわち言語機能(普遍文法)を持っている」という彼の仮説で、過去半世紀近くにわたって理論言語学を支配してきた。コンピュータの発達に伴って、計算論的アプローチを好む学者たちに支持されてきた。

 普遍文法自体も、時代の要請に合わせて、当初のものから→「原理とパラメータのアプローチ」→「計算的回帰性(再帰性)」へと変遷を遂げているが、文法的雛型に単語を当てはめる能力を子供達が生得的に持っているという基本的な考え方は変わらない。普遍文法は、下記の「語用論」も導入しているが、そこでの位置付けはあくまでも文法の脇役にとどまっていた。

 近年、普遍文法に代わる新しい仮説として「用法基盤モデル」と呼ばれるものが登場している。簡単にいうと、「子供は一般的な認知能力や他者の意図を理解する能力を用いて耳にした言葉から文法カテゴリーと規則を作り上げているという見方」。子供達が社会的相互作用の中で、認知処理機構(スキーマ化、習慣化、脱文脈化、自動化、etc)や制限機構(伝達意図推論)によって構文を使う経験を積むことで言語を習得しているとする。上に書いた主従関係が逆転したものとなっている。

  言語の習得が人の新しい脳である大脳新皮質の発達と共に起こったことを考えると、言語はチョムスキーの言うようなハードウエア的なものよりももっとソフトウエア的なものだと思う。チョムスキーは偉大な学者だが、普遍文法仮説はおそらく間違っているように思う。ただ普遍文法は翻訳などの場合、コンピュータでは扱いやすいし、文の意味は理解していなくても、その文法規則にとりあえず当てはめさえすれば訳せてしまうが、一般的には変な訳になってしまう。逆に用法基盤モデルでコンピュータが言語を獲得できるようになった場合、人の子供と同じように、まずはコンピュータがその文の意味を理解できるように学習させることが不可欠になってくると思われる。

 今、全てのコンピュータ言語の中で、一番再帰的な言語といえばLISPになると思うが(LISPでは基本的には繰り返し文は存在せず、再帰で行う。)、言語処理用にLISPをもっと拡張したような言語は作れないものだろうか?(←適当に勝手なことを言っています^^;)いずれにしても、言語はチョムスキーも指摘しているように再帰性が鍵をにぎっているように思う。数年前に大川出版賞を受賞した、田中久美子氏著の「記号と再帰」という本の結語も、「人間の記号系は、再帰的な記号を自然に扱う。・・・今なお、コンピュータは再帰が苦手である。結局、コンピュータの発展は、再帰をどのように機械において扱うかという問題でありつづけるだろう。」というものだった。コンピュータが人間並みに「再帰」を扱えるようになった時、コンピュータは言語を習得していることだろう。

by  チイ

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。