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クラウドの未来 [本]

 クラウドの未来はこれからどうなるのだろうか?この1月に出版された、小池良次著の「クラウドの未来」を読むとその全貌が垣間見えてくるような気がする。著者は、シリコンバレー在住で、現在米国でリアルタイムでおこっているクラウドの現状を現地発の情報として書き下してくれているので、仮に日本のクラウドがおよそ10年遅れだとすると、私達にとっては約10年後の未来の日本を見ているようなものだ。産業界の人にとっては本当に必読書だと思う。

 著者は、これからのクラウドの展望を含めて、クラウドの発展の段階を①クラウド・コンピューティング(現在)->②クラウド・コミュニケーション(2015年頃)→③クラウド・デバイス(2015年以降)→④クラウド・サービス(2015年以降)の4段階に分けて説明してくれている。筆者は、通信業界を専門としているらしくて、特に②のクラウド・コミュニケーションについては本書の中でも2章に渡って、米国と日本のクラウド時代に向けた通信網の整備と展望について書かれてあって、この辺の知識不足であった私にはとても勉強になった。(NGN(Next Generation Network)、IMS(IP Multimedia Subsystem)、オールIP化、SDP(Service Delivery Platform)、ホワイトスペース、ラスト・マイル、ラスト・フィート、LTE(Long Term Evolution)など日米の電波行政の在り方なども含めて、非常に興味深い内容だった。)

 しかし、日本の産業界の人達にとって一番密接な関係にあるのが③のクラウド・デバイスだろう。日本のハード・メーカーの人達の中には、これからのクラウドのM2M(Machine to Machine)の時代に期待を寄せている人も多いと思うが、筆者は逆に日本の製造業の危機として、「クラウド・ブラックホール現象」をあげている。クラウド・ブラックホール現象とは、クライアント側のハードやソフトの中から、高度な機能を担うアプリケーションが分離して、サーバー側(データ・センター)に集約していく現象を指します。この動きはすでに米国では始まっていて、音楽プレーヤーとして米アマゾンのクラウド・ドライブ(コンテンツの保存と再生機能をクラウド側に分離している。)や放送器機業界の事例として、米カイロンのクラウド・プロダクション(字幕、グラフィックや電子編集システムなどをクラウド側で行う。)など色々な事例が紹介されている。日本の家電メーカーでもクライアント製品のハード・ソフトの一体化ということが言われて久しいが、今後この一体化ということの内容がサーバー側まで含めたベスト・ミックスで考えなければいけない時代になっていくということだと思う。それにより従来のクライアント製品の組み込みシステムもクラウドの影響を受けて今後大きく変わっていくことになるだろう。「専用器機を作って売る」から「高度な機能をサービスとして売る」時代が既に始まっているということだ。筆者は、機能は次のように分離していくだろうとしている。

  • サーバー側  アナライズ(分析)、ロジック(論理化)、アルゴリズム(様式化)、オーケストレーション(協調処理)、ビッグ・データ(巨大情報処理)、オプティマイゼーション(最適化)、パーソナライゼーション(個別化)
  • デバイス側  入出力や表示、機動性、堅牢性などのユーザビリティーとインターフェイス機能

 クラウドの特徴は、超集中と超分散だが、上記のような区分けになった場合、クライアント側(デバイス側)で製品の差別化をしてかつ収益を出していくのは相当大変になるだろう。実際、機能のおいしいところ、重要な部分はどんどんサーバー側に集約されていって、その分デバイス側はよりシンプルで簡単なものになっていくだろうから、価格競争に巻き込まれて、内容的には途上国の仕事になっていくように思われる。20世紀のモノが中心だった時代は、CPUやOSといったような重要なプラットフォームを欧米に握られても、それらが入った製品(モノ)で差別化して対抗していくことができたが、情報が中心となったクラウドの時代、それは非常に難しいということだ。現在、スマートフォンは、アップルのiphoneのおかげで、まだリッチ・クライアントの状態になっている。(筆者も書いているが、スマートフォンのクラウド・デバイスの進化はアップルの囲い込み戦略のおけげで、5年以上遅れたと言われている。)現在のスマートフォンは、端末OSに合わせて作られたネイティブ・アプリになっているが、本来のクラウドの理想形は、OSはウェブ・ブラウザの下に隠れたウェブ・アプリケーションとならなければいけない。今後のHTML5時代の到来や、アップルのiCloudの進化・発展に伴って、端末自体はよりシン・クライアントに移行していくものと思われる。

 2012年度の電機大手(特に弱電メーカー)の3月期連結最終損益の決算は、さんさんたるものだったが、クラウドの発展段階がまだ①の現段階でこのような状況なら、このまま推移すれば、クラウドが完成系に近づいていくにつれ、もうペンペン草も生えていないような状況になってしまうのではないか?自動車も電気自動車の時代が到来すると、充電基地で車を乗り捨て乗り換えて目的地まで行くような、個人が車をもう所有しない時代が到来するのではないかと言われている。電気自動車のレンタカーは途上国が製造して、先進国の車メーカーは、中継基地を繋いだ車の充電管理などをクラウドを使って行うといったようなシステム管理サービスが主な業務になっていくように思われる。もうそんな時代が実際に目の前に差し迫って来ているということなのだろう。

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by チイ


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