FREE(フリー) [本]
クリス・アンダーソンのフリー~<無料>からお金を生みだす新戦略~を既にお読みになった方も多いと思う。アンダーソンは「ロングテール」の著者としても有名で、そのバックグラウンドは物理屋さんで、世界的科学雑誌である「ネイチャー」と「サイエンス」誌に勤務後、現在「ワイアード」誌の編集長を務める人物である。本書も2010年代を生き抜くのに欠かせないビズネス書として、世界的なベストセラーにもなっている。
最初にフリーの形態を4つに分類して説明してくれている。
- 直接的内部相互補助 ・・・ フリーでない他のモノを販売し、そこからフリーを補填する。
- 三者間市場 ・・・ 第三者がスポンサーとしてお金を支払うけれど、多くの人々にはフリーとし て提供される。
- フリーミアム ・・・ フリーによって人を惹きつけ、有償のバージョン違いを用意する。これには 典型的なオンラインサイトの五パーセント・ルールがある。
- 非貨幣市場 ・・・ 贈与経済、無償の労働、etc。
今日のフリーについてアンダーソンンの考えを整理すると、
- 21世紀のフリーは、モノの経済であるアトム(原子)経済ではなく、情報通信の経済であるビ ット経済にもとずいている。アトム経済はインフレ状態だが、ビット経済はデフレ状態である。
- ビットの経済ではテクノロジー(情報処理能力、記憶容量、通信帯域幅)の限界費用は年々 ゼロに近づいているので、低い限界費用で複製、伝達できる情報は無料になりたがり、限界 費用の高い情報は高価になりたがる。
- 多くのアイデア商材の価格は引力の法則ならぬ、フリーの万有引力に引っ張られ、それにつ いては抵抗するよりも、むしろ生かす方法を模索せよ。そして、潤沢になってしまった商品の 価値はほかへと移ってしまうので、新たな希少を探してそちらを換金化するべきだ。
この本で一番面白かった所はムダについての考え方だ。この発想は日本人にはなかなかできない。次のように書かれている。「今日の革新者とは、新たに潤沢になったものに着目して、それをどのように浪費すればいいかを考えつく人なのだ。うまく浪費する方法を。」また次のようにも言っている。「潤沢さの持つ可能性をとことんまで追求するためには、コントロールしないことだ。」例として、前時代―トランジスタが豊富性だったとき―の勝者をビル・ゲイツとし、「トランジスタを浪費」したことにより勝利したと述べている。今日ではトランジスタ→インターネット、ビル・ゲイツ→グーグルというわけだ。
グーグルにしても技術的に特に凄い事をしているわけではない。使っている手法は古典的なアルゴリズムだが、それを実現するために何百万台といったサーバーを投入する決断ができる経営者は少ない。しかし、その決断はアンダーソンが言っているように、科学や今日のビットの経済学に裏付けされたもので、そこには規模の経済の法則が成り立っている。よく日本の経営者の中に、欧米に勝手に経済のルールを変えられたという人がいるが、これはある意味必然の流れとも言える。
20世紀はコモディティーだった資源を無駄使いして、特に日本はハードの応用製品で、面白いモノを作れば売れて経済を成長させることができた。しかし、今では半導体のシリコンなどは別にしても、アトム経済はインフレ状態だ。今日、日本が昔のやり方でうまくいかなくなったのは、ある意味当たり前の話で、それはビットの経済の潤沢性を活かしきれてないためだ。それでも、あくまでも希少なレアアースやレアメタルなどのアトムの資源を潤沢に使いたいのであれば、昨今の中国のような戦略を取るしかない。日本にとっては迷惑な話だが、モノ好みの中国としては、それを調達するために、ごく当たり前の戦略を取っているだけのようにも思える。
また、本書では、新しいフリーの経済圏をいちはやく体現しているモデルとして中国、ブラジルの音楽ビジネスの事情についても語られている。(中国では不正コピーが音楽消費の95%を占めると推定されている。また中国では音楽に課金した瞬間に、99%のリスナーを排除することにもなる。)それでも中国でもブラジルでもそのフリーの周りで換金して、ビジネスとして成り立っているのだ。フリーの最先端に興味のある方は是非御一読を。
by チイ
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